星新一 一〇〇一話をつくった人
ゴールデンウィークだが、たぶん家から一歩も出ない予定。
最相葉月「星新一 一〇〇一話をつくった人」(新潮文庫)を読んだ。
やはり長期休暇(といっても五連休だが)は、本を数冊買って家にひきこもるに限る。
たかだか数千円で幸せいっぱい夢いっぱいだ。
そもそもおれが読書するようになったのは、星新一のおかげ。
「オズの魔法使い」や映画「大脱走」の子供向けノベライズ本なんかで読書を好きになりかけたが、毎年夏休みの宿題の読書感想文ですっかり読書イコール苦痛という意識がすりこまれてしまった。
確かに出版社は、読書感想文の課題図書に選んでもらえればそれなりの売り上げがみこめるんだろうが、それは多数の読書嫌いを生み、かえって将来の読者を失っているのではないだろうか?
そんな読書嫌いのおれに小学六年生のとき、友人のM君がこれ面白いから読んでみてと貸してくれたのが星新一の「きまぐれロボット」(角川文庫)だった。
読んで思ったことは、本にも面白い本があるんだという当たりまえといえば当たりまえのことだった。
あまりに気にいったので、M君に本を返した後に自分の本が欲しくなりわざわざ買ってしまったほどだ。
だから、おおげさだけど星新一に出会わなければ、読書感想文のときしか本を読まないまま学生生活を送り、大人になったらもう本を読まない人間になっていたかもしれない。
星新一は最初から作家を目指していたわけではない。
星製薬の社長であった父の急逝により、社長を継ぐことになってしまう。
しかし、新一が社長になったときには、会社は借金まみれで再建は難しい状態だった。
新一は社長職を辞し、科学創作クラブに参加、SF同人誌「宇宙塵」に作品を発表した。
その作品が評判を呼び江戸川乱歩が編集する雑誌「宝石」に転載されて、プロとなっていく。
そのときの心情を新一はこう書いている。
「この時はじめて、私は作家になろうと思った。それ以外に道はないのだ。会社をつぶした男を、まともな会社がやとってくれるわけがない。あこがれたあげく作家になったわけではない。ほかの人とちがう点である。やむをえずなったのだ。背水の陣ではあったが」
日本SF創世記の熱気、小松左京や筒井康隆らとの交流、一〇〇一編を目指しはじめたころの創作のための苦悩と孤独など、星新一ファンのみならず、SFファン必読の書である。
特におれたちやもっと若い世代の日本SF界の初期はどうだったか知らない人たちに読んで欲しい。もし、星新一や矢野徹、柴野拓美、福島正実らの尽力がなければ、日本のSFは十年遅れていたかもしれないからだ。
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