黒い悪魔
佐藤賢一「黒い悪魔」(文春文庫)を読んだ。
文豪アレクサンドル・デュマの父親デュマ将軍(トマ・アレクサンドル)の生涯を描いた作品。
さきごろ完結したデュマ三部作の一作目。
フランスの植民地で貴族である父と奴隷である母との間に生まれたトマ・アレクサンドルは、幼少時代を奴隷として過ごすものの、青年になって軍に入隊するとフランス革命の波にのってめきめきと頭角を現す。
最後には将軍になるものの、同時代にあのナポレオンがいたのが不幸のはじまり。
どうしてもあの男は超えられないと嫉妬にもだえ苦しむことになる。
誰しも思う、同じ人間なのになぜ?という疑問。
圧倒的な実力がありながら、ナポレオンの側近に疎まれ、やがてはナポレオン本人とも決裂してしまう要領の悪さ。
だが、それでもこの男に爽やかな印象が残るのは、ナポレオンと違い革命を己の欲望を満たすために利用するのではなく、奴隷出身であっただけに、フランス革命の理想である平等をどこまでも信じ、実現しようとしたからである。
佐藤賢一が天性のストーリテラーであることを証明してくれた作品である。
黒い悪魔 (文春文庫)
佐藤 賢一
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